ヘブン・ロード〜ブルーローズ2〜 第四話 乗ります

 

 

ルリは手際よく仲間に連絡を取った。

すぐに数人の女の子たちが入ってきた。皆かわいらしいパジャマ姿だ。手に何か持っている。お菓子だ。

 ルリは手早く皿を出してくると皆、そこへお菓子を差し出した。

「差し入れご苦労。では我々のプリンセス、セアラ姫をご紹介しよう」

 ルリはお茶目に言うとセアラを差し出した。

 おおーとどよめきが上がる。その中にひとつちょっとしわがれた声が混じっているのにルリは気づいた。

「ちょっと、誰? 今男の子の声がしたでしょう?」

 ルリは仁王立ちになって詰問する。

 ぐるっとにらみを効かせると赤い髪のショートカットの子がみつあみの女の子の背中に隠れている。

「ここは男子禁制。でていくべし!」

 びしぃぃっっとルリはその男子に言い渡した。そこへみつあみの女の子が付け足す。

「私の兄、サイガなの。別に変な気を起こすわけじゃないから仲間に入れて。普段は弱い兄なのよ」

 懇願されてルリは考える。

「ルリ。遊ぶぐらいはいいんじゃない? やっぱり友達って大切だから」

 セアラが助け舟を出す。

「セアラがいいっていうんならいいけれどね」

 ふぅ、とルリはため息をつく。

「じゃ、各自用意はいい?」

 ルリがみなを見回す。

 こくり、とセアラ以外はうなずいた。

 セアラは何が起こるかわからない。

「レディ・ゴー!」

 言うや否や皆持参したまくらをなげあう。

 きゃっ、とセアラが声を上げる。

「何? 何してるの?」

 セアラはびゅんびゅん飛び交う枕をよけながらルリにたずねる。

「何って枕投げじゃない。知らないの? パジャマパーティの大イベントよ」

「そんなこと聞いていない〜っ!」

「今、聞いたからいいでしょ。ほらセアラもなげて」

 ルリから枕を受け取る。セアラはややかげんしてまくらをなげた。ぽむ、という音と共にサイガにあたる。

「きゃぁ。大丈夫? 怪我しなかった?」

「大丈夫。セアラって優しいんだね」

 サイガがにかっと白い歯を見せて笑う。

「こら。我らが姫君に手を出すな」

 ルリがサイガからセアラをはがす。

「寝るときは帰るからさ〜。セアラを貸して」

 ハートマークがついているように言ったサイガだが、ルリ以下女子の総攻撃にあってあえなくそのまま場外退場となったのであった。

 

「ルリ、急ぐわよっ」

 セアラは低血圧のルリをたたき起こした。パジャマパーティにきていた女の子たちはさっさと用意して出て行っている。ぎりぎりになってセアラも起きたのだ。時計を見て驚きルリをたたき起こしたのだった。もう少ししたら点呼が始まる。これから宇宙艦に乗る実習が待っているのだ。宇宙スーツに着替えてルリを引っ張っていかねばならない。宇宙艦内では常に通常の生活がコロニーと同じほどできるが生徒たちは念のためにスーツを身に着けていくのだ。動きにくいとルリはぶつぶつ言って着替えた。セアラは手馴れたものでささっと用意を済ませてしまう。

 ルリを引っ張っていった時にはすでに点呼が始まっていた。

「ルリ・サナダ、セアラ・ステュアート。また遅刻したな。講義より戻ったら厳罰に処すから心しているように」

「はい」

 セアラは鉄壁の心で返事しながらもルリを一にらみした。ルリの首が短くなる。

「悪かった。お昼の定食で手を打たせて」

「しかたないわね」

 小声で話しているとさらにルークから叱責が飛ぶ。これ以上罰が増えては大変だ。二人はすぐにいつもの列に並んだ。

「これから諸君は宇宙艦シャル号に乗る。むやみに機器に手を触れないように。指示があるまで動くな」

 はい、と大勢の声がいっせいにはもる。

 学園生活の要は集団生活の基礎にある。セアラもルリもそのことは重々承知していた。ただ時々たがが外れるのだ。というか二人が規格外なのだろう。今ならできることとしたいことは違うといったシンディの言葉がわかるような気がするとセアラは思っていた。しかし星をこの目で見るまではがんばろう、そうセアラは自分を叱咤していた。

 シャルに乗り込む。そしていつもは入れないブリッジに生徒たちは立った。歓声がわきあがる。あこがれの艦長席があるブリッジだ。普段民間人はここへは立ちいれない。

「これから数班にわけて機器の説明を受けていく。みな、わからないことがあれば担当のものによく聞くように」

 はーいとまた合唱がありルリとセアラは一緒の班で回ることになった。指導員はなんと公園であったあの青年だった。

「やぁ」

 青年は親しげに声をかける。

「こ、こんにちは」

 上ずった声でセアラは答える。自分を内面叱咤しても顔が赤くなり一気に周りの空気が熱くなった気がした。

「ボクはコール・アーヴィング。これから機器の説明を始めるよ」

 コールはまず速度計から説明を始めた。流れるような説明にルリは必死になってメモを取りながら応対していくがセアラはメモを取らなかった。なぜならそれは見慣れたものだったからだ。蛙の子は蛙の子。そういわれても仕方ない面があることにセアラは今ごろ気づいた。民間人の入れないところにセアラは幼い頃からシンディ伯母の計らいで遊び場にしていたのだ。見慣れた機器類に関しては周りの人間より数倍知っていた。まぁ、動いている宇宙艦で遊ばせてもらったわけではない。宇宙ポートに止まっている宇宙艦に乗せてもらってはいとこのエセルバートやアリサたちと遊んでいたのだ。伯父に当たるヴァクス艦長が丁寧に機器類を説明してくれたことを思い出す。

「さすがはヴァクス艦長の姪だな」

 はっと後ろを振り向くと口元をゆがめたルークがいた。

「メモを取らずに覚えられるとはな・・・。いやもうすでに知っているのだろう。この講義は無駄だったな」

「そんなことありません! そんなこと・・・」

 セアラは抗議したくても抗議できなかった。声が小さくなって消えて行く。すでに自分だけは今回の講義に関してずるをしているようなものだからだ。セアラとルークのやり取りは周りの班には聞かれていなかったが、二人の間にできている緊張の糸がルリたちには見えていた。

「18で軍人学校に入学。遅れてきたのに遅れてないのはどうしてかしらね。あなたはこの中では私の次に優秀みたいね」

 ひょこっとルークの後ろから出てきたモトコが顔を出す。

「モトコ・・・さん」

「驚かないでよ。私は優秀だから全部見終わったの。あなたたちの班は遅れているみたいね」

「モトコ・モーガン。班へ戻るように」

 ルークがたしなめるとモトコはあっかんベーをして自分の班に戻っていった。

「相変わらず、どうしてセアラをライバル視するのかしらねー。本当はぽやぽやしたお嬢様なのにね」

 ルリがくすり、と笑う。

「ぽやぽやとは失礼ね」

「じゃ、せかせかしている方があってる?」

 それはどっちだろう?

 セアラが考え込む間にコールは次の計器の説明に移った。いつしかルークも姿を消していた。不愉快な人。どうして私をいやな目で見るのかしら? 18で入るってそんなにだめなのかしら。

「セアラ・・・。セアラっ」

 ルリの声ではっと我に返る。

「ちゃんと説明聞いてよ。あとでまた教えてもらわないといけないんだから」

「はいはい」

セアラはそう言ってまたコールの説明に耳を傾けた。

 

 長い計器の説明を終えてルリ達はだれていた。もう考えたくない、といったところであろうか。一方、セアラはなんともなかった。計器の説明のあとは自由時間だった。みな、興味のある機器をさわったりしている。むやみに触るなといわれているが動かすな、という意味であって触れるぐらいは大丈夫らしい。が、セアラの班はダウンしていた。コールは馬鹿丁寧に説明し膨大な情報量が彼女たちに襲い掛かったのである。頭の中は飽和状態だった。この間のパジャマパーティで知り合ったケイティもルリと愚痴をこぼしていた。ケイティは双子の兄がいる。サイガである。彼は別の班で操縦かんをいじっていた。さすがは男の子である。操縦するということに夢があるらしい。セアラは慣れきった宇宙艦の中なのでなにも特別興味を引いたわけでもないし、ばてているわけでもなかった。ふっと体を預けボタンがぽちっと押された。そこから声が聞こえてきた。

“こんにちは。レディ・セアラ”

 きゃっとセアラは驚いたがすぐに冷静になった。

「ごめんなさい。AIにつながってしまったのね」

 あわててスイッチを探そうとするセアラをAIベティはとめた。

“私はベティです。よろしく。レディ・セアラ”

 ふぅとセアラはため息をつく。

「私には称号はなしでいいわよ」

“いえ、これは仲間内での決まりごとですから”

 苦笑したようなAIの声が聞こえてくる。

 そういえば、と思い出す。おもちゃにしていた宇宙艦のAIはいつも「レディ・セアラ」と呼んでいた。AIの知識はすべてつながっているらしい。恐ろしいことだ。いつの日かAIに世界はのっとられるのではないだろうか、そういうことをセアラは考える。

「仕方ないわね。昔のことを出されては。それじゃぁ、ひまだからおしゃべりに付き合ってくれる? この子はキャリーよ。私のAI」

 そう言ってセアラはそっとわからぬようにキャリーの端末をひらいた。

“よろしくキャリー”

“よろしく、ベティ”

 AI同士で会話が始まるかと思いきやベティはセアラに興味を持っているようだった。知っていることを話し始める。あわててそれをとめようとしたが止まらない。しかたなく矛先を変えるようにした。

「ねぇ、ここのプログラムってどうなっているの? 教えて」

“昔話はお嫌ですか。ならばこの最新鋭の私たちのことをお話しましょう”

 ベティはそう言ってこのシェル号の特徴を話し出した。ほっとしてセアラは聞こうとする。そして話はプログラムの組み方に移ってセアラはいつしかキャリーをもとにプログラミングする方法を学び始めていた。そんなセアラの背中を面白くなさそうにルークは見ていた。

成績は常に優。性格も悪くない。貴族にあるようなおごり高ぶった感じもない。むしろそれを嫌っている。総合的には悪くない。だが、ほかの生徒のように放っておけばいいのに気がいってしまうのだ。なぜだかわからないが。それゆえルークはこの面倒な気持ちをもてあまし結局セアラとルリに八つ当たりしていたのだった。ルリにはやっかいな役回りである。

 やがて時間が来た。動いている宇宙艦にはまだ乗れない。自分の練習機さえろくにあつかえないのだ。動いている宇宙艦などという大層なものに触らせるほど学校も馬鹿ではない。人の命を守っているのだから。

 生徒たちはまたセカンドムーンに戻る。ルリとセアラにはレーザーのレンズ磨きが待っていた。


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  • 2019.08.14 Wednesday
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